2025年12月10日、台湾の今年の漢字(台灣年度代表字大選)が発表されました。
多くの人々が見守る中、選ばれたのは、まさかの「罷(bà)」。日本語で言えば「やめる」「罷免(リコール)」を意味する、非常に重く、政治的な一文字です。
パリオリンピックでの金メダルラッシュなど、明るいニュースもあったはずの2025年。なぜ台湾の人々は、あえてこのネガティブな文字を選ばざるを得なかったのでしょうか?
このあと、ランキング結果の詳細や、現地で暮らす人々がこの字に込めた「政治疲れ」のリアルな感情を深掘り解説します。
2025年の代表字は「罷」圧倒的票数で選ばれた理由
台湾の「今年の代表字」は、中国信託文教基金会と聯合報が主催し、市民の投票によって決まる年末の恒例行事です。
2025年、全51の候補字の中から最多得票(15,084票)を獲得し、1位に選ばれたのが「罷」でした。
金メダリスト林郁婷(リン・ユーティン)選手が揮毫した「皮肉」と「希望」
発表会見のステージに登壇し、力強い筆致でこの「罷」の字を書いたのは、パリオリンピックのボクシング女子で金メダルを獲得した林郁婷(リン・ユーティン)選手でした。
彼女がこの字を揮毫(きごう)する姿は、台湾社会にとって非常に象徴的なシーンとなりました。
林選手自身、「(ネット上での誹謗中傷や政治的な騒音を)やめてほしい」「試合を終わらせる」という意味を込めたとも取れますが、同時に、多くの台湾市民が抱く「もう争いはやめて、平穏に暮らしたい」という切実な願いを、国民的ヒーローが代弁した形となったのです。
2位は「詐」、3位は「乱」。ランキングから見る国民の不安
今年のトップ3を見ると、台湾社会の空気がより鮮明に見えてきます。
- 1位:「罷」(15,084票)
- 2位:「詐」(7,588票)
- 3位:「乱」(5,673票)
1位の「罷」は、2位の「詐」に約2倍という圧倒的な票差をつけています。
2位の「詐」は、依然として無くならない投資詐欺や、AIを使ったフェイクニュースへの警戒感を表しています。3位の「乱」も含め、ポジティブな文字が上位に入らなかったことは、2025年の台湾がいかに内政の混乱に揺れたかを物語っています。
ちなみに、昨年の2024年は「貪(貪欲)」、2023年は「缺(欠乏)」でした。ここ数年、台湾の人々が社会情勢に対して厳しい目を向けていることが分かります。
なぜ「罷」なのか?台湾社会を覆う「大罷免時代」の正体
旅行客として台湾を訪れると、美味しい食事や親切な人々に癒やされますが、2025年の台湾政界は「大罷免時代」と呼ばれるほどの激動の中にありました。
終わらない「報復性罷免(リコール合戦)」とは
「罷」が選ばれた最大の理由は、一年を通じて続いた政治家のリコール(罷免)運動です。
総統選挙・立法委員選挙が終わった後も、与党(民進党)と野党(国民党・民衆党)の対立は収まるどころか激化。「朝小野大(与党が少数、野党が多数)」というねじれ国会の構造の中、法案審議は停滞し、互いに相手党の議員や市長を引きずり下ろそうとする「報復性のリコール運動」が各地で勃発しました。
特に注目を集めた基隆市長のリコール問題など、選挙が終わってもなお選挙戦が続いているような状況に、ニュースを見る市民の目は釘付けになりつつも、心は離れていきました。
SNSを飛び交う「心累(心が疲れた)」の声
この状況に対し、台湾のSNS(FacebookやThreads、PTTなど)では、若者を中心に以下のような声が溢れました。
- 「政治家たちはいつまで喧嘩をしているんだ?」
- 「物価は上がっているのに、国会ではリコールの話ばかり」
- 「心累(心が疲れた)。もうニュースは見たくない」
「罷」という字には、「罷免」という具体的な政治アクションだけでなく、「もういい加減にしてくれ(罷了)」という、国民の深い**「諦め」と「疲れ」**が込められているのです。
台湾人の友人と話すネタに!関連する中国語キーワード
もし、台湾の友人とこの話題になったら、以下のキーワードを知っておくと、より深い共感が生まれるかもしれません。
- 罷免(bàmiǎn / バーミィェン)リコール、罷免すること。今年の流行語大賞と言ってもいいほど、ニュースで連呼されました。
- 心累(xīnlèi / シンレイ)「心が疲れた」という意味。政治に限らず、仕事や人間関係に疲れた時によく使われる若者言葉です。「今年の漢字は『罷』だったね」と言われたら、「大家都很心累吧(みんな心が疲れちゃってるんだね)」と返すと、気持ちを分かってくれていると感じてもらえます。
まとめ:2026年は「安」や「和」を願って
2025年の台湾を象徴する漢字「罷」。
それは、激しい政治対立に対する国民の強烈な「NO」の意思表示であり、平穏な日常を取り戻したいという悲痛な叫びでもありました。
もしみなさんがこれから台湾を訪れたり、台湾の人と話したりする機会があれば、この「罷」の背景にあるストーリーを思い出してみてください。単に「活気ある台湾」というだけでなく、悩みながらも前へ進もうとする台湾社会のリアルな一面が見えてくるはずです。
来年こそは、「安(安心)」や「和(平和)」、「楽(楽しい)」といった、明るい文字が選ばれる年になることを願いたいです。



