台湾旅行で最初に驚くこと、それがバイクの多さ
台湾を訪れた人なら、おそらく最初の24時間で気づくはずです。街中がバイクに埋め尽くされている光景に。
朝の通勤時間帯に台北の橋を見れば、まるでバイクの滝が流れているようです。
本記事では、なぜ台湾はこんなにバイクが多いのか、その背景にある理由と、日本では決して見ることができない独特なバイク文化を紹介します。
なぜ台湾の通勤ラッシュはバイクで埋め尽くされるのか
バイク密度が世界トップレベル。保有率は人口の7割
台湾のバイク保有率は驚くほど高く、人口の約7割がバイクを所有しています。
特に台北市内では、あらゆる街角に大量のバイク専用駐車スペースが用意されており、どのお店の前を見ても、バイクがズラリと並んでいるのが当たり前の光景です。
2023年の時点で、台湾全体のバイク登録台数は2000万台を超えており、人口が約2300万人であることを考えると、いかに圧倒的な数字かが分かります。
日本では軽自動車が一般的ですが、台湾ではスクーターが生活の足として完全に定着しているのです。

朝8時、台北大橋のバイク専用道路が「通勤回廊」に変貌

通勤時間帯の台北中心部では、あらゆる信号交差点がバイクで完全に占拠されます。
特に有名なのが、台北駅から北西約2キロに位置する台北大橋のバイク専用道路です。
この場所では毎朝、通勤通学で市内中心部へ向かう大量のスクーターが、次々と走り出します。
まるで信号のたびに「バイクの波」が街全体を押し流すかのような光景で、一度見たら忘れられない体験になります。
親が子どもを後ろに乗せて保育園に送る姿も日常で、バイクは単なる乗り物ではなく、家族の移動そのものを担っているのです。
圧倒的な密度でもマナーが保たれている理由
驚くべきは、これだけの台数が同じ場所を走っているのに、ある程度の秩序が保たれていることです。
信号待ちでは整然と列を作り、無理やり追い越そうとするバイクはほぼ見当たりません。
台湾人にとってバイク運転は日常の当たり前の行動であり、子どもの頃から自然と身に着けた技能なのです。
ただし、全体的な交通事故死者数を見ると、バイク関連の死亡事故が全体の63%を占めており、台湾の交通事情の厳しさが数字に表れています。
台湾がこんなにバイク社会になった理由。歴史・経済・地理の複合要因
理由1:政府が「一時的な乗り物」と判断したことが全ての始まり
台湾政府は、バイクを元々「過渡期の交通手段」として位置づけていました。
つまり、将来的には自動車中心の社会になるまでの、あくまで「つなぎ」の乗り物だと考えていたのです。
そのため、バイクの台数に対しては厳しい制限を設けず、登録も比較的自由に行わせていました。
結果として、都市化が急速に進む中でバイク台数が爆発的に増加し、気づけばそれが台湾の「文化」になってしまったのです。
本来は一時的なはずが、数十年経った今でもその構造は変わらず、むしろより強固になってしまいました。
理由2:自動車の価格が高すぎること
台湾でバイクが普及した最大の経済的理由は、自動車がとんでもなく高いということです。
日本で100万円程度の普通自動車を台湾に輸入しようとすると、関税や諸税が大きく上乗せされ、最終的には500万円前後になってしまいます。
さらに車の販売価格が一定以上になると、豪奢品税として追加で10%の税金が課されます。
こうした経済的障壁により、多くの台湾人は「まずはバイク」という選択をせざるを得ないのです。
バイクであれば新車でも10万台湾ドル(約50万円)程度で購入できるため、経済的負担ははるかに軽くなります。

理由3:バイクの国内生産が充実していることが産業発展を後押し
台湾にはKYMCO、SYM、Gogoroといった大手バイクメーカーが複数存在し、国内生産でバイクの価格が抑えられています。
一方で自動車は輸入に依存する割合が高く、関税の負担は避けられません。
さらに台湾政府は、バイク産業を積極的に奨励しており、電動バイクの普及促進に向けた施策も強化されています。
Gogoroなどの電動スクーターは、バッテリー交換ステーションが街中に整備され、スマートフォンで残量を確認できるスマートな設計により、新世代のバイク文化を牽引しています。
理由4:気候と都市構造がバイク最適化している
台湾は一年中温暖で、雪が降ることもありません。
バイク運転に適した気候環境が整っているだけでなく、都市構造そのものがバイク向きに設計されています。
台北を中心とした都市部では、細い路地が迷路のように走っており、大きな車で通すより、小回りの利くバイクの方が実用的です。
駐車スペースも、バイク専用の場所が至るところに用意されており、車よりも格段に駐車しやすいという利便性があります。
台湾のバイク文化の現在地。電動化と高度化が同時進行
最新のバイク事情:Gogoroが象徴する「電動バイク革命」
近年、台湾のバイク文化は大きな転換点を迎えています。
ガソリンを燃料とする従来型のバイクに加えて、Gogoroに代表される電動バイクが急速に普及しているのです。
電動バイクの利点は、ガソリンを入れる必要がなく、バッテリー交換ステーションで数分でバッテリーを交換できることです。
スマートフォンアプリで充電状況をリアルタイムに確認でき、最寄りの交換ステーションまで案内してくれる利便性があります。
環境への配慮と利便性を両立させたこのシステムは、台湾の未来志向の一面を象徴しており、若い世代から急速に支持を集めています。
バイク台数の変化と社会への影響
台湾全体のバイク登録台数は、この10年でさらに増加を続けており、2024年の時点では2000万台を超えています。
公共交通機関の充実した台北市内でも、バイクの台数は増え続けており、むしろ通勤・通学の主役はバイクのままです。
電動バイクの普及により、排気ガスの削減と同時に、騒音も減少し、都市環境は少しずつ改善されつつあります。
日本とは全く異なる、台湾独特のバイク利用方法
親子で一緒に移動。子どもの送迎はバイクが当たり前
台湾ではバイクの後部座席に、3歳から6歳の幼い子どもを乗せ、そのまま保育園や幼稚園に送り迎えする親の姿が日常的に見られます。
日本では考えられないこの光景も、台湾では社会的に完全に受け入れられているものです。
ヘルメットは被らせていることが多いですが、子どもの体をしっかり支えながらバイクを運転する親のバランス感覚は、単なる習慣ではなく、長年の経験に基づいた技能として蓄積されています。
バイク社会を支える「バイク専用駐車スペース」の充実ぶり
台北市内のほぼすべての施設には、バイク専用の駐車スペースが用意されています。
デパートの地下、飲食店の前、公共施設の横など、あらゆる場所にバイク駐車エリアが存在し、それも完全に無料です。
これは自動車社会の国ではありえない光景で、台湾がいかにバイクを社会インフラの一部として組み込んでいるかを示す証拠です。
朝の通勤ラッシュ時には、これらの駐車スペースが満杯になるほどの需要がありますが、その対応も含めて、台湾社会全体でバイク文化が完全に統合されているのです。
女性からシニアまで。老若男女がバイク社会を支えている
台湾のバイク乗りを観察していると、男性だけでなく、女性やシニア層も積極的にバイクを利用していることに気づきます。
スーツ姿の女性ビジネスマンがバイク通勤し、ヘルメットを脱ぐと長い髪をふんわり整える光景も珍しくありません。
また、60歳を超えるシニア世代も、自分のバイクを運転し、毎日の移動を自分自身で担っている人も多くいます。
これは、台湾社会全体でバイク運転技能が世代を超えて受け継がれている(煽りではないです)ことを意味しており、バイク文化がいかに根深いかを示しています。
台湾の通勤ラッシュが「絶景」に見える理由
台北大橋のバイク専用道路が「世界的な観光スポット」化
台北大橋のバイク専用道路は、今や台湾を訪れた観光客が必ず立ち寄るほどの名所になってしまいました。
朝8時前後の通勤時間帯に訪れると、バイクの波を見るために集まった観光客カメラを持ったスマートフォンユーザーが、黙々とこの光景を記録しています。
台湾人にとっては何の変哲もない日常風景ですが、外国人の眼に映ると、都市文化の一つの傑作に見えるのです。
交通マナーの厳しさ。バイク社会ならではの課題
交通事故死者数の63%がバイク関連。新しい規制の登場
台湾の交通事情は、バイクの多さと比例して、交通事故のリスクも高いのが実態です。
交通部道路交通安全督導委員会の統計によると、2022年の交通事故死者数は3,085人で、そのうち63%がバイク関連事故だったのです。
人口5倍の日本と台湾の交通事故死者数がほぼ同じという事実は、台湾のバイク事故リスクが日本の約5倍という計算になります。
この深刻な状況を改善するため、台湾では近年、交通ルールの罰則をかなり厳しくしており、運転中のタバコ禁止(罰金600台湾ドル≈2,800円)といった規制も導入されています。

バイク社会の「影」:危険と背中合わせの日常
バイク運転中にタバコの箱を持っているだけで違反とされるなど、台湾の交通ルール遵守の厳しさは業界トップレベルです。
また、街中には日本では考えられないほどの数のスピード測定カメラ(オービス)が設置されており、交通安全強化の気合いが伝わってきます。
ただし、ルールの厳しさにもかかわらず、実際の交通マナーの悪さについては「世界一」という評価もあり、指摘する声も多いです。
バイクの多さと高速性によって、歩行者との接触事故や危険な運転行為は相変わらず後を絶たず、台湾の交通課題は依然深刻なままなのです。
日本人が台湾でバイクに乗るときの注意点
台湾でバイクをレンタルする場合の手続き
台湾でバイクに乗ってみたいという日本人も増えており、レンタルバイクの需要も高まっています。
驚くべきことに、台湾ではバイク運転に関しては比較的規制が緩く、以下の3点があれば日本人でもレンタルバイクを借りられます。
- パスポート
- 日本の運転免許証(国際免許証)
- クレジットカード
ただし、台湾の交通ルールを十分に理解し、特に信号無視や一時停止の無視は厳しく取り締まられることを認識して乗る必要があります。
台湾特有の危険:右左折時の巻き込み事故に注意
台湾のバイク社会で最も危険とされているのが、交差点での右左折時の巻き込み事故です。
バイクが多いため、交差点でも予期しない位置からバイクが近づいてくることがあり、日本人ドライバーの感覚では対応しきれないことがあります。
また、バイク運転者も、他のバイクとの接触を避けるため、想定外の走行ラインを取ることもあり、両者の予測運転が食い違う場面が多発しています。
台湾のバイク社会から見える未来
電動化の波が変える台湾のバイク文化

Gogoroなどの電動バイクの普及により、台湾のバイク社会は静粛化と環境配慮へと向かっています。
ガソリンエンジンの時代が終わり、スマート技術とバッテリー交換インフラが融合した新しいバイク文化が確立されつつあります。
この動きは、単なる乗り物の進化ではなく、台湾社会全体の未来志向の姿勢を象徴しているのです。
バイク文化は今後も台湾社会の中心であり続ける
人口比で見ても、世界最高水準のバイク保有率を持つ台湾では、バイク社会がなくなることはありません。
むしろ、電動化と高度化によって、より安全で快適なバイク社会へと進化していくと予想されます。
国内産業としてのバイク産業も健全に機能し、次世代型バイク技術の開発が進んでいます。

まとめ:バイクが流れる街、それが台湾
台湾の朝の通勤ラッシュで見られるバイクの「滝」は、単なる交通現象ではなく、台湾という社会の構造そのものを映し出しています。
政府が一時的な乗り物と位置づけたバイクが、数十年の歴史の中で、自動車の高さ、気候、都市構造、産業政策といった複数の要因が複雑に絡み合った結果、今や台湾社会に欠かせないインフラへと成長しました。
次に台湾を訪れた時には、ぜひこの「バイクの滝」を自分の目で見てみてください。
世界どこにもない、台湾独自の光景がそこにあります。

